現パロ




文字や数式の羅列というのはなぜこうも眠気を誘うのだろうか。学生身分…いや、社会人であっても考えることは同じなのではないだろうか。中にはそもそもそうした疑問点すら挙げることなく意識の奥へとズブズブ沈んでいく者もいるだろう。…まああれだ、つまりは言ってしまえば大多数マジョリティ的考え・行動に則って言うならば、俺が勉強のさ中居眠りしてしまっても仕方がない、とか。


「んなワケねぇだろバカババ」
「…ですよね」


苛々しながら此方に向けてくる瞳の鋭さに思わず敬語になる。俺が幾らサイレント・マジョリティについて説いたとしても、目の前のこいつはいとも簡単にそんな俺の言を撥ね退けてしまうのだろう。





本日は素晴らしき休日日曜日…なのだが、実際問題休みを満喫しようという初期動作すら許されず、俺は自室にて目の前の男と二人朝から勉強漬けとなっていた。机を挟んで向かい側に座る男はジュダルと言い、俺の家の隣に住んでいる現役大学生だ。いっそ幼馴染みと表現しても良いくらい、俺とジュダルは昔からよく一緒にいた。正確には俺が引っ付いて回っていたのだが、ジュダル当人も大して気にした様子は無く、暇さえあれば遊んでくれた。…今考えるとあれは遊んでくれたというより遊ばれていたような気がする。



そうして現在、俺はちょうど高校三年生という人生において忙しく追い詰められる時期を迎えていた。大学に進むつもりでいるのだが、これといった志望校は無く適当に自分の学力に合った所へ行くつもりだった。…だがある日そのことをポロッとジュダルに零すと「はぁ?何言ってんだよ、お前は俺と同じトコに来るんだろ」と心底不思議そうな顔をされた。いやいやお前が何言ってんだよと返したくなったが、そんなことを言えば何をされるか分からない。ジュダルは逆らわれるのが何より嫌いな男なのだ。理不尽な暴力には慣れたが回避出来るものは回避したい。…だがここですっぱり断っておけば良かったと今では後悔している。ジュダルの通う大学は俺のレベルより二つも三つも上のレベルで、当然受験においてのハードルは見上げてしまうほど高い。更に滑りどめ等の掛け持ち受験は許されておらず、本気で受かるよう勉強しなければならなくなった。その現実を知ったときは思わず泣きそうになったのだが、俺の学力を知る母親が先の経験者であるジュダルに勉強をみてもらえば良いのだと提案してきた。その時は「なるほどその手があった」と光明を見たのだが、馬鹿な俺は失念していたのだ…ジュダルという男が一体どんな人物であるのかを。






「だからそこ違うっつってんだろーが。何回同じ間違いすりゃあ気が済むんだよあ゛ぁっ!?」


なんなんだこのガラの悪いチンピラは。家庭教師?いやいやどこぞのヤの付くお方ではないのでしょうか。
俺の頭を盛大に教科書でぶっ叩いてから舌打ちするジュダル。これ脳細胞死滅するんじゃないだろうかというほどの加減の無さだ。…もちろん物覚えの悪い俺の責任でもあるのだが、だからといってここまでの仕打ちをされなければならないのだろうか。若干遠い目をしていると、ぼーっとしてんなとまた頭を叩かれた。痛い。


「チッ、お前は何でんなバカなんだよアリババクンよぉ?」


バサリと手にしていた教科書を端に放ったジュダルは、ジットリとした目でこちらを見る。うん、ごめんなさい。


「…仕方ねぇな、定番のアレやるか」
「アレ?」


ぽつり、と落とされた台詞になぜか鳥肌が立った。嫌な予感は予感のままさよならしたい。実感なんていらないです。だがそんな俺の願いは聞き届けられなかったようで。


「こっち来い」
「いやだ」
「…あ゛?」
「すみませんすぐ行きます」


さささっと机を回る俺の弱いこと。一つしか年齢は違わないのになんとも残念なヒエラルキーが完成してしまっている。幼いころからの刷り込みもあるのだろうが、ここまで明確な力関係が成り立っているだなんて自分を情けなく感じてしまう。


「来た、けど」
「座れ」


目の前で突っ立っていると、俺を見下ろすなと怒られた。相変わらず理不尽にも程がある。
そうして恐る恐る腰を下ろすと胸倉を掴まれ強い力で引っ張られた。俺は成す術なくそのままジュダルの方へ倒れ込み、その混乱が落ち着く前に首筋にチリッとした痛みが走った。


「っ、ぅ、?な、なに…」
「キスマーク」
「、は…ぁっ!?」
「これから一問間違えるごとにキスマーク一つな」
「なん、な…ど、どういうつもり」
「どういうつもりもお前はペナルティねぇとやる気を出さねぇみてぇだし。キスだとご褒美になっちまうからなぁ……これ、他人に見られんのは嫌だろ?なら精々無い脳みそ使って問題解け」


にやりと意地悪く笑う男にどう返すことも出来ず、ただぱくぱくと口を開閉することしか出来ない。そんな俺をしばらくにやにやしながら見ていたジュダルだが、フッと表情をやや真剣なものに変え、ゆっくりと唇を開いた。


「まあ安心しろよ。本番まであと三ヶ月…それまでにお前をただのバカから出来るバカに進化させてやる」


俺がお前を合格させてやる。
自信満々にはっきりと言い切ったジュダルに思わず身体が震えた。


「なんだよ、それ…そんなの…」


(そんなの、やるしかねぇじゃねぇか)



「この俺が教えるんだ。死ぬ気でやれよアリババ」




首筋に灯された熱がじりじりと全身を焦がすようで。俺はただ無言のまま首を縦に振るしかなかった。












(あまりのずるさに眩暈がする)





***


結城様、この度は50000打企画にご参加下さり誠にありがとうございました!

ジュダアリで甘めのパロ物…との事でしたが、ご希望に果たしてこれで応えられているのかどうなのか…こ、こんなので申し訳ないです!

もう何とも言えないアレな話ですみませんんんん苦情はいつでもどうぞ!(土下座)

それでは本当にありがとうございました!!


(針山うみこ)